シーン3|女という性(さが)、紅の血

「うあっちぃ!!」
「バカ正吾! 何やってんのよ!」

化学の実験での出来事。
正吾は、今の今まで熱していた金属皿を素手で掴んでしまった。使っていない皿と間違えたとはいえ、なんてことをしてるんだろう。
当の本人も予想外のことだったらしく、驚いた反動で机の上にあった実験器具をなぎ倒し、その後もしばらく呆然としていた。

「大丈夫? 早く冷やさないと。こっち来て」

状況に見かねた野中さんは、同じ班ということもあって、正吾の手を引き水洗い場へ連れて行った……。

「サンキュ、野中。もういいよ、手冷たいだろ?」

 

 

 

 

 

それは、私にとっても正吾にとっても大きな出来事だった。

たった一言。
だけどそれは、水面ぎりぎりまで注(つ)いであるコップに落ちた雫のように、正吾の心を動揺させるには充分過ぎることだった。
時間にしてはほんの数秒。その僅かな時でも、二人の間を流れる空気は他のそれとは別物だった。二人だけが感じることの出来る空間。
言葉よりも指先から伝わったそれは、きっと──野中さんの熱い思い。

応急処置を終えた野中さんは、今はもう普段と変わらない。正吾は野中さんから借りたハンカチを傷にあて、保健室へと向かった。
だけど私は違っていた。
鼓動は激しく、まるで体中の血が、ざわざわと騒いでいる感覚がしていた……。


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