強引
ドクン、と一つ大きく心臓が跳ねた。 右手首に加わった強い力。 そして、あと数センチで触れてしまうほど縮まった互いの唇の距離。 射抜くような彼の視線にとらわれた私は、瞬きするのも忘れて彼の言葉を聞いた。 「先輩、俺の性別わ…
ドクン、と一つ大きく心臓が跳ねた。 右手首に加わった強い力。 そして、あと数センチで触れてしまうほど縮まった互いの唇の距離。 射抜くような彼の視線にとらわれた私は、瞬きするのも忘れて彼の言葉を聞いた。 「先輩、俺の性別わ…
私は、自分の中に流れる女の血が嫌いだった。 男に溺れた母親のようにはなるまいと、必死で自分の中の女を排除してきた。感情の赴くままに動かず、女だからと甘えず、男にバカにされないよう対等に渡り歩こうと生きてきた。 だか…
これは、私が講師として活動するために身につけておいた方がいいなと、魄(はく)や朧(おぼろ)について学んでいた時の話。 兄ちゃん──伊藤智孝(いとうともたか)先生に呆れ顔をさせるほど、私は暇さえあれば質問していた。 単純に…
どうしても、ここから先が書けなかった。 彩ちゃんに教えてもらった通り、会話文をメインに書き、その間に『地の文』を入れた。キャラ設定は既に実際の人物がいるので省いた。テーマは『浮気』。浮気をやめて欲しいからっていう気持ちが…
それは、ふと思ったことだった。本当に、何を考えていたわけでもなく、言葉にして思い浮かべていたわけでもなく、不意に口から零れ落ちていった──そんな感覚だった。 「佑羽たちは彼に浮気されたらどうする?」 突然の質問に二人は顔…
「今さ、何が一番モヤモヤした?」 不意に尋ねられ、私は今までの会話で感じたことを思い出す。 シュウが佑羽のことを好きでもないのに手を出そうとするのも「えー」と思ったし、誰でもいいってことにも驚いた。そして……それが私にも…
私は小説を書いたことがないから「続きが書けない」という感覚がよくわからなかった。 佑羽の書いたこの小説は、彼女がいるにも関わらず女子から誘われたら簡単に遊びまくるという男子が主人公の恋愛ものだ。 そんな主人公に悩んでいた…
結局、玲音れのんからはっきりとした答えを聞くことはできなかった。はっきりとしたというより、俺が期待したといった方が正しいか。玲音の出した答えは「今のこの関係は楽しいと思ってる」という、グレー色極まりないものだった。 つま…
文化祭も終わり、紅葉がちらほら見え始めた11月。私はお気に入りとなっている中庭に足を運んだ。休み時間や放課後にここを利用する生徒の数は、先週と比べてぐんと減っていた。すっかり肌寒くなったからなぁ……大きく息を吸った私の…
あの人との距離が縮まるきっかけは、いつも雨だった。 初めての会話、初めての一緒の下校、そしてお互い名前で呼び合うようになった時も雨が降っていた。 小雨というよりは強い降り方の雨に、私は昇降口で空を見上げて息を一つ吐…