理性と欲望の天秤3
それは数時間経った今も変わらずにいた。その間に後片付けをしようが、風呂に入ろうが、気持ちはさっぱりしない。 悶々とした気持ちを抱え、智孝はベッドの上に寝転がった。うまく整理できない頭の中とは正反対に、体はベッドに沈んだま…
それは数時間経った今も変わらずにいた。その間に後片付けをしようが、風呂に入ろうが、気持ちはさっぱりしない。 悶々とした気持ちを抱え、智孝はベッドの上に寝転がった。うまく整理できない頭の中とは正反対に、体はベッドに沈んだま…
「ねえ、私がお邪魔だったら、外に出てくけど?」 事情を知っている人のこの発言は、智孝と佑羽を赤面させるには充分だった。佑羽はそれにプラス、手を左右に勢いよく振っている。 「いや、そんな必要ないから! っていうより、里美が…
「先輩、バレンタインで俺が言ったこと覚えてる?」 この一言で、先輩の顔はみるみる内に赤くなった。 反応から覚えていることが予想できるが、どうしても彼女の口から言わせたくなる。 先輩は俺から視線を外し、躊躇いがちに口を開く…
ドクン、と一つ大きく心臓が跳ねた。 右手首に加わった強い力。 そして、あと数センチで触れてしまうほど縮まった互いの唇の距離。 射抜くような彼の視線にとらわれた私は、瞬きするのも忘れて彼の言葉を聞いた。 「先輩、俺の性別わ…
8月。 夏休みという学生の特権を満喫──とまではいかないが、まあまあ楽しんでいる諫美(いさみ)は、何か飲み物をとってこようとキッチンへ向かった。 クーラーがきいている部屋にいても、窓の外から大音量のセミの声が聞こえてくれ…
「ねえ、遼(りょう)。ひざまくらしてあげる。こっちきて」 自室のベッドの上に座り、佑羽(ゆば)はそう言って手招きをした。 年頃の男子としてはおいしいのか困ってしまうのか微妙なシチュエーションだが、せっかくの佑羽の誘い…
家の留守を丸一日預かる。 そういったことは、家族と暮らしていてたまに起こることだろう。それは伊藤智孝(いとうともたか)にも言えたことであり、彼は妹と二人で二日間を過ごすことになった。 しかしこの妹、兄に家事をやらせるどこ…
最悪だ。いつものバカみたいな元気が、どうしてこういう時に限ってなくなってしまうんだろう。 玖堂(くどう)佑羽(ゆば)はぼーっとする頭でそんなことを思った。 今日は共通の知り合いたちと来たスキー旅行の初日である。恋人…
「お邪魔します」 海白彩は今日も実春の家へ遊びに来ていた。 「あら彩ちゃん、いらっしゃい」 玄関先で彼の母親に会う。どうやら急いで出掛けるようで、いつもするちょっとした世間話は今日はお預けらしい。 「じゃあ実春、後は…
彼女はぼんやりと携帯画面を眺めていた。 心を占めるのは不安の二文字。 ここ数日、恋人と連絡が取れない事がその原因だ。今一度、彼の電話番号を呼び出すと発信ボタンを押す。 「――お留守番サービスに接続いたします」 何…