初めは、聞き間違いかと思った。
でも、彼女ははっきりと言った。
「いじめられるのは、弱いからじゃないよ」
どういう意味なのか? と眉間に皺を寄せる。
「立場的にとか、肉体的にっていうのはあるけど、本当は強くて優しい人だからだよ」
ますます言っている意味がわからなかった。
「だって、それに耐えられる人や許してくれる人にしかやらないもん。そんなこと」
反撃されたら、元も子もないでしょ? と、続けて彼女は言う。
「僕は……許してるわけじゃない。反抗しても無駄だと思ったからだ」
「そうだとしてもだよ。結局、許してるのと同じだもん。痛いのわかってるから、仕返しだってしないでしょ?」
今まで弱いからだと思ってきた僕にとって、彼女の言葉がうまく処理できずに単なる音として耳に入ってくるようだった。
「それに、その経験を乗り越えてきたからこそ、聖くんは誰よりも強くなれて、人に優しくできるよ」
でも、心が熱くなったのはわかった。泣いているのか? この僕が?
「──君は、僕に期待しすぎだよ」
「そう、かな?」
「でも──その期待には応えたい」
地につけた足に力を込めて僕は言う。彼女はにこりと笑ってお礼を口にした。
しかしこの後、箍が外れた僕は中に潜む魔物を開放してしまうのであった。
──聖と有羽