ベンチに座ってぼんやりと冬の装いを纏(まと)っている人々の往来を見ていた。
待ち合わせ時刻を5分ほど過ぎている。
広場に立つ時計を見上げ辺りを見回す、という何度目かの行動をして私は携帯電話を取り出した。
別に彼にかけようというのではなく、ただ何となく持っていたかった。
緊急の事態……例えば電車が事故で遅れているといった時は必ず連絡をしてくれた。
今日はたまたま乗り遅れたか、それとも誰かに道を尋ねられたりしているのか。
「智孝さん、優しいからなぁ」
そう呟いてくすっと笑う。
いつものメンバーで歩いていても智孝さんにだけ道を尋ねるし。あれは聞く人も答えてくれそうな人を選んでいるのかしら。
この前だって、集団で歩いていたのに何故か智孝さんだけアンケートを迫られていて、みんなで笑ったっけ。
「隙がありすぎるんだよ」なんて言われても照れたような笑みを浮かべるだけで何も言わなかった。
彼の笑顔を見ているだけで幸せだった。
いままでも。そしてこれからも。
「彩、ごめん。待ったか?」
息を切らしながら愛しい男性が私に声を掛ける。
「ううん、私も今来たところだから」
そう言って携帯をしまうと、ベンチから立ち上がる。
いつものように手を繋ぐと智孝さんは困ったように笑って
「ごめんな、彩。随分と待たせてしまったみたいで」
両手を包み込んでくれた。
15分も早くここへ着いてしまったので、手が冷たくなっていたのだ。それに気が付いたのは智孝さんの暖かい手を握った時だった。
照れ笑いをして彼を見ると優しい微笑で私を見つめていた。
ずっと智孝さんの側にいたい。
そう願いながら私達は冬の街を歩き出した。
その手をしっかり繋いだまま……。
END
待ち合わせ|桜左近