2月14日。
この日は朝から皆そわそわしてて、好きな子の行動をお互いに気にしてる。綿飴みたいに甘くてふわふわとした空気に包まれている感じが何だかいい。
それに、女の子がすっごくかわいく見えるんだよね。好きな人のために一生懸命になってる姿なんて、けなげでかわいいでしょ?
買うにしても手作りにしても、自分のために時間を使ってくれたことが嬉しいんだ。だから男は義理でも欲しがるし、喜ぶんだよね。
今年は君からもらえるかな?
毎年くれるチョコレート。本音を言えば、俺が本命であって欲しい。いつも貰えるだけで十分だって思うんだけど、貰えたら貰えたで欲が出てくる。
きっと君は本場に倣(なら)ってくれてるんだろう。辞書で“バレンタイン”を引いたら、『恋人同士や親子、先生と生徒・友達同士などで贈り物をしたり、(バレンタイン)カードを贈る風習がある』って書いてあった。多分それ。友達同士ってやつの部類。
俺は君が好きになってくれるのを待っていられない。男だったら、好きにさせる!くらい言えないとね。だから俺もこの機会にのることにしたんだ。
クラスメートにフラワーアレンジメント部の子がいて、頼んでおいた君へのプレゼント。喜んでもらえるかな?日頃の感謝って言えば、受け取ってはくれるはずだから。
放課後、俺は君と中庭で待ち合わせ。部活があるから遅くなっちゃうけどって言ったら、待ってると答えてくれた。そういう優しさがたまらない。
約束の時間10分前に、プレゼントを持って目印となる木の下へ。深呼吸して君を待つ。だけど君は、一回の呼吸で姿を見せた。
俺だと確信すると、大きく手を振って走り出した。まだ約束の時間にもなってないから、そんなに焦らなくてもと思う反面、急いで来てくれることが嬉しくもある。そういう仕草がかわいくて、思わず抱きしめたくなるって言ったら、君はやっぱり困るだろうか?
「ごめんね、待った?」
「ううん」
「よかったぁ。はいこれ、手作りチョコレート。受け取ってくれる?」
ちょっと恥ずかしそうにしてチョコの入った箱を差し出す君。俺は咄嗟にプレゼントを腰にさし、チョコを受け取った。
「手作り?」
「うん。今年は頑張ってみました!」
「すっげー嬉しい!ありがとう!ちゃんと手洗ってから、正座して食べるよ」
「あはは。ありがとう」
ぱっと笑顔が咲いて、俺もつられてにこにこと笑う。
不思議だな。どうして君が笑うと、俺まで嬉しくなるんだろう?すごく優しい気持ちになれるんだ。ずっと、俺の側で笑っていてくれないかな。
と、そこまで考えて一大決心したことを思い出した。手作りということに舞い上がってしまい、本題を忘れてた。
腰にさしていたプレゼントを右手に持ち、大きく息を吸う。よし、言うぞ。
「あのさ、俺もプレゼントがあるんだ───はい、どうぞ」
「わぁ、かわいい」
それは赤いバラのミニブーケ。辞書の受け売りだけど、君を好きな気持ちは本物だよ。
「ありがとう」
本当に嬉しそうにしてブーケを受け取る君。バラの香りを楽しむ姿がちょっと色っぽくて、俺の方がドキドキしてしまう。
「……?あ、カードが入ってる」
気付いた!
少し照れくさいけど、君が読み終わるまで黙っていよう。そこには俺の気持ちが書いてあるから───
『好きです』
君はカードを持ったまま頬を赤く染めていた。
「これ……」
「俺、有羽が好きだよ。これからも、ずっと」
そう、きっと君を好きでいることは変わらない。
君が誰を好きでも、俺は君が好き。
「うん───私も、遼のこと好き。ずっと……ずっと大好きだから」
俯いて答えていたけど、最後は俺のことを真っ直ぐに見つめてくれた。
君の瞳を見たら、もう何も考えられなくなって───気付いたら君を抱きしめていた。
「やったあ」
噛み締めるように、喜びが言葉となって外へ出た。試合に勝った時とは違う嬉しさが込み上がる。このまま君を抱えて皆に自慢したい気分だ。さすがに実行は出来ないけど。
「そんなに嬉しい?」
「嬉しいよ!有羽は違うの?」
「ううん。私も嬉しい」
そして今度は、君から抱きついてきてくれた。
しばらく、照れくささもあり嬉しさもありで、二人して笑ってた。
空は日が落ちて暗くなり始め、辺りも下校する生徒の数が増えてきた頃、俺達は手をつないで歩き出す。
お互いのプレゼントとこれからに心を躍らせながら───
END