12月25日。
今日は前々から皆で約束をしていた日だ。今の仲良しメンバーで盛大なパーティをしようと。今年になってようやくそれが叶うということだ。
仲間の晴臣の叔父が経営している飲食店を貸切にして、皆で準備をし、思い出に残るパーティにするつもりだった。
月日の流れは止められることはなく、いずれ皆がそれぞれの道を歩んでいくことになるだろう。そんな時に自信となる絆を作っておきたかったというのが、大きな目的だった。
食料の買出しに赴(おもむ)いた有羽(ゆば)と実春(みはる)と翔太(しょうた)は、各々両手に荷物を抱えていた。特に有羽はメインである10号(直径30cm)のケーキを運ぶという重大任務を負っている。
「しかし、今から準備して間に合うのか?」
「大丈夫だよ。遅れる人もいるし、多少の融通はきくでしょ」
「……既に遅れることを想定してるんだな、お前は」
「あれ? バレた?」
呆れた口調で話していた実春だが、本心からではないので有羽の軽口に笑う。
「あ。姉さんだ──と、樫倉(かしくら)先輩?」
「え? どこどこ?」
意外な組み合わせだと言わんばかりの口ぶりだった翔太の発言に、身を乗り出してその人物を探す有羽。実春はすぐに見つけられたのか、視線を固定したまま二人を見つめている。
「本当だ。二人とも何してるんだろ?」
「買い物だろ」
有羽の疑問にさらりと答える実春だが、二人の醸し出す雰囲気に、好意を抱いている者としてはいささか不安を感じずにはいられなかった。有羽が放った言葉も胸にひっかかる。
「怪しいなぁ。これはスクープ発見か!? って感じじゃない?」
「えー! 姉さんと樫倉先輩が? それはないでしょう」
しかし、翔太はけらけらと笑って軽くそれを否定する。
「何でそう思うの?」
「だって、樫倉先輩って姉さんのタイプじゃないですもん」
「そうかなぁ」
「そうですよ」
よほど自信があるのか、翔太は胸を張って答える。が、そんな三人をよそに、二人はある店に足を運んだ。
「……ねえ、あそこってアクセサリー店じゃない?」
確かその店には少々ジュエリーも扱っているはずだ。有羽は二人の顔を見て、何かの意図を含めた笑いを浮かべる。そして喜々として先陣を切り、店のウィンドウから中を覗いた。
「ほら、やっぱり怪しいよ! あそこってリングコーナーじゃない? もしかしてペアリングとか? きゃー! 恥ずかしい」
「お前が照れることじゃないだろ」
「えー? 姉さんが? おかしいなぁ」
店の真ん前で騒いでいる三人組を見つけた店員は、訝しみながらも笑顔を作って扉を開けに近づく。
「あ、やばい! 店員さんが来るよ。早く逃げなきゃ」
「うわっ、急に振り返るな」
「あー! ケーキ!!」
グシャ。
振り返る有羽と正面衝突した実春によって、ケーキはものの見事にひっくり返って地面に落ちた。皆は唖然としてお互いの顔を見比べるだけである。
「大丈夫ですか?」
「は、はい! 大丈夫です! 失礼しましたー!!」
店員の声でようやく我に返った有羽は慌ててケーキを拾う。中身はどんなことになっているかわからないが、形が円柱でないことは予想出来た。
「あ、樫倉先輩」
そこへ買い物を終えた晟(せい)が店から出てきた。
「何やってんの?」
「あはは、ちょっと石につまづいちゃって。私ってドジだよねー。……晟たちは?」
「ちょっと彩(あや)先輩と買い物に」
「そうなんだぁ。もしかしてクリスマスプレゼント?」
「そうだよ。あれ? 気になってる?」
「べ、別に、そんなんじゃないよ」
どこか嬉しそうな顔をして尋ねる晟の気持ちに気付いているのかいないのか、有羽は視線を逸らして立ち上がる。
実春はそんな有羽の態度に「気になるくせに」と呟くが、素直じゃないのは自分も同じであることに気付き自嘲気味に笑った。
「ケーキ、どうしよう……」
「ちょっと形が不格好になったからって食べられないわけじゃないわ。そのまま頂きましょ」
少し遅れて顔を出した彩がにこりと笑ってそう声をかける。それについては皆も同意見だったので、そのまま晴臣の店に帰ることにした。
彩と晟も用事が済んだとのことなので、荷物運びを手伝う。
そして和気あいあいと準備を始める一同。一生の思い出に残るパーティーはこうして開かれた──