ハァ…。
玖堂有羽(くどう ゆば)は柵に寄りかかり、ぼんやりと飾り立てられたイルミネーションを眺めていた。
本当なら恋人と一緒に楽しむはずだったのに。
最初は小さな擦れ違いだった。
それを修復できないままズレは大きくなり、喧嘩にまで発展してしまった。それがつい先日のこと。
大きく吐いた溜め息は、真っ白な塊のように吐き出された。しかしそれはすぐに解(ほど)けて闇に溶け込んでしまう。
心のわだかまりもこんなふうに消えればいいのにな。
通りに目を移すと幸せそうな恋人達が笑顔で歩いている。それが一層有羽を空しくさせた。
私、何やってるんだろ…。
こんな関係になる前に彼と約束をしていた。
『クリスマスはイルミネーションを見に行こうね』
毎年鮮やかな光の芸術を楽しませてくれる、この辺りではちょっと有名な通りを歩こうと指切りをしたのだ。
『約束だよ』
やくそく、か。
小指を見つめて、また息を吐く。
果たせないままに今日が終わる。
あんな喧嘩をしたんだもん、来てくれるわけないよね。
それどころか約束自体覚えていないだろう。3ヶ月も前の事なのだから。
「このまま終わっちゃうのかな、私達…」
ぽつりと呟く。
俯(うつむ)く有羽の耳に声が飛び込んできた。
「有羽、こっちにいたのか」
顔を上げると肩で息をしている男性がいた。野田実春(のだ みはる)、喧嘩した相手だ。
「実春くん──」
言葉が続かない。
「向こうばかり探していたから遅くなったけど。これ、クリスマスプレゼント」
ごめんな。喧嘩のことを謝りながら紙袋を差し出す。
飛びつくようにして実春を抱き締める。
「ねえ、私のことどう思ってる?」
短く驚いたような声を漏らすと有羽を強く抱き締め、想いを耳元で囁く。
その甘い響きに彼の身体に回した手に力を込める。
「私の方こそゴメンね。意地ばっかり張って、謝ることも出来なくて…。今日つくづく思ったの。私も同じ気持ち。実春くんのことが――」
大好きだよ。
END
好きだよ。|桜左近