短編小説– category –
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LAST SCENE|僕の初めては113秒。
また電車がせわしなく人を吐き出し、飲み込んだ。 反対に僕はゆっくりと鉄格子をつかみながら膝を落とした。肝心の「では、どうすればいいか?」がわからず、頭に大きなおもりがあるみたいだった。重くのしかかり、苦しい。 ドサリと鞄が肩から落ち、紙が... -
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SCENE4|僕の初めては113秒。
それから僕は生きることも死ぬこともできなくなった。生きることも死ぬことも怖くなった。 あの男のように飛び降りたとしても、今の僕ではこう言われるだけの価値しかない。 「どこか違う所でやれよ」 一時は話題になるかもしれない。同じ学校の奴らも少し... -
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SCENE3|僕の初めては113秒。
それは強い衝撃だった。 外部から物理的にというよりは、内部がめまぐるしい速さで動いているようだった。 頭に心臓があるのではないかと思うほどの鼓動が激しく高鳴る。緊張で汗をかく。手は微かに震えていた。 人が、死んだ。 見てしまった。その黒い塊... -
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SCENE2|僕の初めては113秒。
その後男がどうなったのかはわからない。もちろん、ニュースにも載ってない。次の日にもう一度訪れたが、何の変哲もなかった。警察が『立ち入り禁止』の境界線を貼ることもなければ、以前と変わらぬ静けさを保っていた。 もしや、あれは夢だったのではない... -
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僕の初めては113秒。
「またしようね」と、赤い唇が動いた。 そして制限時間ギリギリとなった彼女は、そそくさと部屋を出る。その後姿を見て僕は思った。 残念だけど、それはない。 僕の初めては終わってしまったから。 僕の初めては113秒。 ある日の夕方、家へ帰ろうとする僕... -
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8:君がいたから(完)
「ふっ、う……うう」 急に涙が溢れ出た。次々と零れる涙を、カードを持ったままの手で拭う。むせ返るように溢れる感情をもはや止めることは出来なかった。 私だけに向けられた優しさも、喜ばせようとしてくれたことも、幸せを願ってくれたことも全部そうな... -
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7:約束|君がいたから
もしかしてと思い出したことだが、あのナンパの日の帰りも、真己は私を送るために誘いにのったのではないだろうか?買出しの品を手にして、店が忙しいことを忘れるとは思えない。 「真己くんの優しさは誰にでも向けられるけれど、菜々子だけに向けられた優... -
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6:バナナミルクと私の居場所|君がいたから
小料理屋「凛」は本当に近所にあった。込み合った商店街の中のお店くらいの広さだが、狭くは感じない。きっとおばさんのセンスがいいのだろう。 予め真己から話が通っていたようで、おばさんは驚くことなく快く迎え入れてくれた。まだ夕方ということもある... -
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5:再会|君がいたから
真己は少しでも私たちと一緒に食べるご飯をおいしいと感じてくれていただろうか?父は、私たちが楽しいと感じているのだから真己も同じ気持ちだと言っていたが。一緒にいることが当たり前で、意識することなどなかったのだが……私たちの関係って、一体何な... -
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4:偏見と牽制|君がいたから
「菜々子」 不意に名前を呼ばれて、私はびくりとして顔を上げた。 「何だ。お父さんか」 もう、私を「菜々子」と呼ぶ男性は父しかいないというのに、何を期待しているんだろう。 「どうしたの?」 「お茶淹れたから、一緒に飲もう」 「うん。わかった」 私...
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