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短編小説
8:君がいたから(完)
「ふっ、う……うう」 急に涙が溢れ出た。次々と零れる涙を、カードを持ったままの手で拭う。むせ返るように溢れる感情をもはや止めることは出来なかった。 私だけに向けられた優しさも、喜ばせようとしてくれたことも、幸せを願ってくれたことも全部そうな... -
短編小説
7:約束|君がいたから
もしかしてと思い出したことだが、あのナンパの日の帰りも、真己は私を送るために誘いにのったのではないだろうか?買出しの品を手にして、店が忙しいことを忘れるとは思えない。 「真己くんの優しさは誰にでも向けられるけれど、菜々子だけに向けられた優... -
短編小説
6:バナナミルクと私の居場所|君がいたから
小料理屋「凛」は本当に近所にあった。込み合った商店街の中のお店くらいの広さだが、狭くは感じない。きっとおばさんのセンスがいいのだろう。 予め真己から話が通っていたようで、おばさんは驚くことなく快く迎え入れてくれた。まだ夕方ということもある... -
短編小説
5:再会|君がいたから
真己は少しでも私たちと一緒に食べるご飯をおいしいと感じてくれていただろうか?父は、私たちが楽しいと感じているのだから真己も同じ気持ちだと言っていたが。一緒にいることが当たり前で、意識することなどなかったのだが……私たちの関係って、一体何な... -
短編小説
4:偏見と牽制|君がいたから
「菜々子」 不意に名前を呼ばれて、私はびくりとして顔を上げた。 「何だ。お父さんか」 もう、私を「菜々子」と呼ぶ男性は父しかいないというのに、何を期待しているんだろう。 「どうしたの?」 「お茶淹れたから、一緒に飲もう」 「うん。わかった」 私... -
短編小説
3:四つ葉のクローバー|君がいたから
それから真己は本当によくしてくれた。私が学校に慣れるまでは──といっても、実際は卒業まで一緒に登校してくれたり、何か困ったことがあったら助けてくれたり、遊び仲間に加えてくれたりもした。 私にとってスーパーマン的な存在である真己でも、かわいら... -
短編小説
2:最悪な第一印象|君がいたから
私、榎本菜々子(えのもと ななこ)と真己は、幼馴染みということもあり、私が7歳の頃からの付き合いだった。 ちなみに真己とは同い年である。それなのに8年しか一緒にいられなかったのは、私たちが中学二年生の頃、真己のお母さんの仕事の都合で、引っ... -
短編小説
1.帰宅|君がいたから
6月28日。 その日は梅雨時にもかかわらず嫌味なほど晴れていた。 火葬場から天へと昇る煙を見つめ、私は一時間程前に別れを告げた人を思い出した。 本橋真己(もとはし まさき) 私の幼馴染みで、家族のような存在でもあった彼は、一言で言えば面倒見... -
ONE SCENE STORY
劣等感ていうのは、自分だけが感じるものなんだよ
私は、自分の中に流れる女の血が嫌いだった。男に溺れた母親のようにはなるまいと、必死で自分の中の女を排除してきた。感情の赴くままに動かず、女だからと甘えず、男にバカにされないよう対等に渡り歩こうと生きてきた。だから必死で勉強をした。努力を... -
ONE SCENE STORY
言う相手が間違ってても。言える場所があるって大事なことだよ。
彼女は言った。「男が怖い」と。次に「いなくなっちゃえばいいのに」と続けた。そして最後に「ひどいこと言ってごめんなさい」と、俺に謝った。 言う相手が間違っていることも、そんな男ばかりでないこともわかっていると、彼女は言った。でも、どうしても...