ドクン、と一つ大きく心臓が跳ねた。
右手首に加わった強い力。
そして、あと数センチで触れてしまうほど縮まった互いの唇の距離。
射抜くような彼の視線にとらわれた私は、瞬きするのも忘れて彼の言葉を聞いた。
「先輩、俺の性別わかってる?」
そんな聞かなくても私がわかっている質問に、何故か急に恥ずかしくなり、私はその気持ちを表すように顔を赤らめた。
腰に回されている彼の腕から体温を感じる。
「わ、わかってるよ。そんなこと」
「そ。じゃあ男ってもんをわかってないってことだ」
その言葉に私はぐっと息を呑む。
こんな状況のままでこの後どうなるかってことは、いくら私でも予測できる。
でも、こんな状況になるなんて思いもしなかったのは事実だ。
「……チョコ、欲しくないの?」
視線を外し、私はどうでもいいことを口にする。
しかし彼はさっきよりもさらに近づき、耳元で囁いた。
「欲しいよ。先輩のことも全部」
そして、言い終わると同時に耳たぶへのキスが贈られた。
私はその瞬間、背筋が痺れるのがわかった。触れられた耳が熱い。
「っ、諫美(いさみ)くん」
戸惑いを表すと、彼は意外にもあっさりと私を放した。
一つ息を吐き、やれやれと言った様子で口を開く。
「だから言ったじゃん? わかってないって。チョコ渡したいだけなら、そう言えばいいんだよ。先輩、何したっけ?」
「もう少し一緒にいてって言いました」
「それだけ?」
「……諫美くんに抱きついてた」
歯切れ悪く答える私に、諫美くんはくすっと笑う。
私の頬に触れ、覗き込むようにして「わかった?」と尋ねる彼に、こくりと頷く私。
1秒ほど見つめ合った先には、彼の優しいキスが待っていた。
「さっきのは忠告分、これは授業料ってことで」
「まだあるの?」
「チョコのお返しに期待しててよ」
いたずらっ子のような笑みを浮かべてそんなことを言われては、赤面は免れない。
少し前にあんなことがあったんだから。
それでもチョコを差し出してしまうのは、強引さの中で見せる───彼の愛。
END