今日も雨が降っている。 憂鬱以外の感情の持ちようが無い僕は傘を開くと学校を後にした。 雨は、嫌いだ。 視線を地面に落とすようにして歩き出す。 そんな僕を擦り抜けて雨の中でも他の生徒達は賑やかな笑い声を振りまいていた。まるで降雨も一つのイベン...

　自室に入り、電気を付けようとした手が止まった。　淡白い月明かりが室内を照らしている。　いつもはそのまま電気を付けてしまうが、今日は何故だか月を見たくなった。　誘われるように薄明かりの中、窓まで辿り着くと開けて空を見上げる。　そこには綺...

　はあ～～～～。　放課後、教室に戻ると机に突っ伏すようにして大きな溜め息を吐いているクラスメイトに遭遇した。 「どうしたの？」 　近付き、そう声を掛ける。　顔を上げた彼女が僕の顔を見上げると 「あ、聖くんか。ん…あのね。彩ちゃんのことなんだ...

『珊瑚の指輪を左小指にしていると運命の相手と出会えます』――私もこの指輪で最高の恋人と巡り会えました――――今度、結婚します。全てはこの指輪のお陰です―― 　雑誌の広告にあるこんな言葉を読むと、自分の左手の小指にあるコーラルリングが妙に気恥ずかし...

　彼女はマイクをテーブルの上に置くと間近にいる男性に微笑みかけた。　彼は同じように笑みを返すと音楽と映像が流れ出したテレビへと顔を向ける。　その音楽、歌詞に聞き覚えがあった海白と共にカラオケに行ったその時に想い人が歌った歌だ。　どういう...

　風が吹くと足下の木の葉が乾いた音を立てながら渦を巻いた。　その中を恋人達がゆっくりと歩を進めている。　ふと女性が男性とは逆の方向に目を向け足を止めた。 「彩、どうした？」 　腕を組む、というより彼のコートの腕部分だけをそっと握っている彼...

「うー、寒い」 　手を擦(こす)りながら駅から流れ出してくる人の群れに、何度目かの視線を向ける。　ようやく奥から手を挙げてこちらへ駆けてくる男性の姿を見つけると、彼女は安心したような笑顔になった。 「ごめん、待った？」 　遠藤遼太朗の問いに「...

「お邪魔します」 　海白彩は今日も実春の家へ遊びに来ていた。 「あら彩ちゃん、いらっしゃい」 　玄関先で彼の母親に会う。どうやら急いで出掛けるようで、いつもするちょっとした世間話は今日はお預けらしい。 「じゃあ実春、後は頼んだわよ。彩ちゃん...

彼女はぼんやりと携帯画面を眺めていた。 心を占めるのは不安の二文字。 ここ数日、恋人と連絡が取れない事がその原因だ。今一度、彼の電話番号を呼び出すと発信ボタンを押す。 「――お留守番サービスに接続いたします」 何度かのコール音の後に続く、聞き...