予告・番外編– category –
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好きだよ。
ハァ…。 玖堂有羽(くどう ゆば)は柵に寄りかかり、ぼんやりと飾り立てられたイルミネーションを眺めていた。 本当なら恋人と一緒に楽しむはずだったのに。 最初は小さな擦れ違いだった。 それを修復できないままズレは大きくなり、喧嘩にまで発展... -
あなたとこの空の下
「はい、智孝さん」 箸で挟んだ卵焼きを彼の口元に運ぶと男性はそれを当たり前のようにパクリと食べる。 「おいしい?」 「ああ」 智孝は笑顔で頷き、その表情を受けて彩の微笑みも輝きが増した。 恋人達はデートの昼食場所として有名かつ広大な公園... -
いつも。いつまでも。
穏やかな昼下がり。 野田実春はソファに座ってまどろんでいた。 と、スリッパの音がして声が聞こえてくる。 「遅くなってごめんなさい…。あら、実春くん。寝ているの?」 何となく起きて返事をするのもかったるかった彼は、そのまま目を閉じていた... -
聖なる夜に
「なんか彩先輩とこうしているのが、すごく不思議」 樫倉のことが好きだったんじゃないの?」「……うん。先輩に出会ってなければ、多分有羽に告白してたと思う」 彼は隣りにいる恋人に巡り会う前の出来事に思いを馳せた。 気になる女の子がいた。 同じ... -
切望の風景
沈みゆく夕陽が人々の列を紅(あか)く染め上げていく。 その中に海白彩と伊藤智孝もいて、緩やかな太陽光に照らし出された彼女の表情は心なしか憂いを帯びているようにも見えた。 列の先頭には、この遊園地の呼び物である巨大観覧車がそびえ立って... -
ヒナ・マツリ
「ねえ、彩先輩。先輩の家はお雛様とか出すの?」 海白彩は樫倉晟の誘いを受けて、彼の部屋へ遊びに来ていた。 クッションの上に座っている彼女の隣りに腰を下ろした晟はそう質問すると、彩は微笑んで「もちろん」と答えた。 「じゃあ…ひし餅とか、あと白... -
ウタニ ササゲル-Sakon’s side-
終業式も間近に迫った12月中旬。 部活で使用する雑多な資料を抱えた海白が立ち話をしていた。 「(…神谷くん)」 密かに想いを寄せている男性の姿を見つけて、彩の鼓動は早まる。 しかし普段通りの聖に比べ、少し深刻そうな表情を浮かべている晟の... -
紅く染まる空を見上げながら
「でも彩ちゃんが手伝ってくれるとは思わなかったよ。何でも言ってみるもんだね」 玖堂有羽(くどう ゆば)は会議室の扉を開けながらそう言った。 「提出するものも何とか終わったしね。それにココって入ったことなかったから」 有羽の後ろから海白彩... -
紫陽花(あじさい)
長雨の続くこの季節になると思い出すことがある。 今年卒業してしまった先輩との会話。 本当に小さなことで、多分先輩も覚えていないだろう。それくらい、些細な内容だった。でも僕には忘れられない、大切な想い出だ。 あれは去年の梅雨。 いつもの... -
Sweet Christmas【彩と実春編】
晟(せい)とのツーショットをまざまざと見せ付けられてからも、いつもと変わりなく接していた実春(みはる)だったが、パーティでの彩(あや)の様子にある心配の種を撒いていた。 それは終了時には大きく花を咲かせ、いても立ってもいられなくなった実...