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Len*Ren
2月14日
玖堂有羽(くどう ゆば)は学校の門の壁に寄りかかりながら、自分の吐く白い息が空中に霧散(むさん)していく様子を眺めていた。 「(子供の時は吐く息の大きさを競っていたっけ)」 懐かしくなって実行しようと大きく息を吸い込む。しかし冷気が肺の中... -
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ホットチョコのように。
「はい。どうぞ」 にこりと笑いながら有羽は言った。手にしているカップからは、ゆらゆらとホットチョコレートの湯気がたっている。 晟はお礼を述べてひと口飲む。 ほどよい甘さと、寒空の下にはありがたい温かさに自然と顔がほころんだ。 「どう?」... -
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雨上がり
梅雨とはいえ、これで何日間降っているのだろう。 そんな溜め息が聴こえてきそうな雨の中、野田実春(のだ みはる)は近所の商店街の中を傘を差して歩いていた。 「全く…よく降るよな」 誰ともなく呟いてしまうのは、彼の心も晴れることが無いからだろう... -
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桜切符
夕闇に彩られた公園内の広場では、あちらこちらで宴会が始まっていた。それを避けるようにして、ドーム状に広がる桜並木の道を海白彩(うみしら あや)と神谷聖(かみや ひじり)の両名が歩いている。彩は雪のように舞い散る花弁を受け止めようと手を差... -
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紆余曲折
いつの頃からだろう。あの人を好きになり始めたのは。有り得ない夢を見ては溜め息を吐(つ)く、そんな行動がいつしか習慣のようになってしまった。彼には付き合っている女性がいる。それが親友ともなれば自分の想いを伝えることが出来ないのは仕方がない... -
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平行線
くらりと身体が揺れた。自らの頭を軽く押さえて神谷聖(かみや ひじり)は机に手を置く。 「大丈夫?聖くん」 優しい女性の声が彼に掛かる。聖は椅子に腰を降ろしながら大丈夫だと答えた。 「ちょっと熱っぽいだけだから」 しばらく休めば治るだろう、そ... -
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強引|Sakon’s side
互いの息遣いが聞こえてきそうな程の至近距離。 目前に愛しい人の瞳があった。 まるで時間が止まってしまったような感覚に襲われて、身動きが取れない。 上手く呼吸が出来ない中で視界の隅に見える、曇っている空模様が心を写し出しているような気がした。... -
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陽だまり
ガチャリ。コンビニの袋を手にした部屋の持ち主が扉を開くと、中にいる人物に向かって声を掛けた。「悪い、遅くなった」返事が無いので怪訝に思い部屋を見渡すと玖堂有羽(くどう ゆば)がベッドの上で横になって寝ている。待ちくたびれて布団の上でゴロ... -
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想いを伝えて
色とりどりのイルミネーションが鮮やかに煌(きらめ)いて街の夜を彩(いろど)る。彼らが外へ出た時は、既に辺りは真っ暗だった。 「寒~い」 暖房の効いていた建物から出てきた為、余計にそう思うのだろう。海白彩(うみしら あや)はそう言ってマフラ... -
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流星に願いをのせて
「おはよ」 朝、家の前で彼は言った。私も笑顔を浮かべて挨拶を交わす。彼の隣に立つと、自然と手を差し伸べてくれ、私はそれに応えるようにして手をつないだ。 こうして一緒に登校できるのも、今日が最後だ。 そう思うと、胸に鉛が落ちたような感覚がした...