桜左近– tag –
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Len*Ren
紅く染まる空を見上げながら
「でも彩ちゃんが手伝ってくれるとは思わなかったよ。何でも言ってみるもんだね」 玖堂有羽(くどう ゆば)は会議室の扉を開けながらそう言った。 「提出するものも何とか終わったしね。それにココって入ったことなかったから」 有羽の後ろから海白彩... -
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紫陽花(あじさい)
長雨の続くこの季節になると思い出すことがある。 今年卒業してしまった先輩との会話。 本当に小さなことで、多分先輩も覚えていないだろう。それくらい、些細な内容だった。でも僕には忘れられない、大切な想い出だ。 あれは去年の梅雨。 いつもの... -
Len*Ren
3月14日
三月も半ばとは云え、まだ春には遠い気温が続く。「(昨日は暖かかったんだがな)」伊藤智孝(いとう ともたか)は公園のベンチに座りながら空を見上げる。重く垂れ込めた雲は今にも降りだしそうな雰囲気を醸(かも)し出していた。降らなきゃいいが、と... -
Len*Ren
2月14日
玖堂有羽(くどう ゆば)は学校の門の壁に寄りかかりながら、自分の吐く白い息が空中に霧散(むさん)していく様子を眺めていた。 「(子供の時は吐く息の大きさを競っていたっけ)」 懐かしくなって実行しようと大きく息を吸い込む。しかし冷気が肺の中... -
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雨上がり
梅雨とはいえ、これで何日間降っているのだろう。 そんな溜め息が聴こえてきそうな雨の中、野田実春(のだ みはる)は近所の商店街の中を傘を差して歩いていた。 「全く…よく降るよな」 誰ともなく呟いてしまうのは、彼の心も晴れることが無いからだろう... -
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紆余曲折
いつの頃からだろう。あの人を好きになり始めたのは。有り得ない夢を見ては溜め息を吐(つ)く、そんな行動がいつしか習慣のようになってしまった。彼には付き合っている女性がいる。それが親友ともなれば自分の想いを伝えることが出来ないのは仕方がない... -
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平行線
くらりと身体が揺れた。自らの頭を軽く押さえて神谷聖(かみや ひじり)は机に手を置く。 「大丈夫?聖くん」 優しい女性の声が彼に掛かる。聖は椅子に腰を降ろしながら大丈夫だと答えた。 「ちょっと熱っぽいだけだから」 しばらく休めば治るだろう、そ... -
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陽だまり
ガチャリ。コンビニの袋を手にした部屋の持ち主が扉を開くと、中にいる人物に向かって声を掛けた。「悪い、遅くなった」返事が無いので怪訝に思い部屋を見渡すと玖堂有羽(くどう ゆば)がベッドの上で横になって寝ている。待ちくたびれて布団の上でゴロ... -
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想いを伝えて
色とりどりのイルミネーションが鮮やかに煌(きらめ)いて街の夜を彩(いろど)る。彼らが外へ出た時は、既に辺りは真っ暗だった。 「寒~い」 暖房の効いていた建物から出てきた為、余計にそう思うのだろう。海白彩(うみしら あや)はそう言ってマフラ... -
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『願いの舟』
「智孝さん、次はあれに乗りませんか?」 船に乗りコインを泉に投げ入れるという恋人に人気の室内アトラクション、私はそれを指差した。 「スピーカーから聞こえてくる声に従ってコインを投げて下さいね」 乗物に乗り込んだ私達に、係員がそう注意を促しな...